いつもお世話になっている美容室のオーナーから、不要になったというマガジンラックを頂いた。一見簡単な作りに見えるが、オーダーメイドらしいマガジンラックは継ぎ目がしっかりとしていて、とても丁寧に作られている。
「要らなくなった店のインテリアを処分したんですけど、作りが頑丈過ぎて叩いても潰せないので苦労しました」と、ぼくの髪を切りながらオーナーは笑った。
確かに随分と頑丈に作られている。素材もしっかりとしたものを使っているらしい。こんなものを頂いていいの?と恐縮しながら頂いた。
うちのツマも同じ美容室に通っていて、以前、髪を切っている時のお話の流れで「あのマガジンラックは何処で買ったんですか?」と、何気なく聞いた事があったそうだ。オーナーはその事を憶えていてくれたようで、ぼくに声を掛けてくれていた。そんな訳で、今回、こいつが我が家にやって来る事になったのだ。「捨てるよりは、喜んで使ってくれた方が良いですから」と。
髪を切り終えた頃、「うちの若いヤツが自宅まで持って行きますよ。ご自宅近いでしょう?」と、オーナーが言ってくれたので、お言葉に甘える事にした。「若いですけど気の良い連中ですから」とオーナーは、また笑った。
少し雨が降り出しそうな空の下、二人の青年が手で抱えて、大きなマガジンラックを快く運んでくれた。
「このアルミの部分は自分たちで組み立てたんですよ」と、片方の大柄な青年が言う。昔、このマガジンラックが置いてあった店舗を新しく出店した時の事らしい。懐かしそうに。少し感傷的に。今回、何店舗か運営しているうちの、このお店を閉じる事になったのだ。
ぼくが「オーナーが妻との会話を憶えてくれたようで、頂くようになったんですよ」と話すと、「ああ、あの人はそういう所ありますから」と、二人の青年は顔を見合わせて微笑んだ。
二人の青年は、マンションのエレベータを上がって、わざわざ自宅の玄関まで運んでくれた。
「引っ越し屋さんみたいに使ってしまってすみませんね」というと、「いえいえ」とはにかむような表情で「それでは失礼します」と二人の青年は帰って行った。
そんな訳で、ぼくの家の玄関脇には立派なマガジンラックが置かれている。
その仮置きのマガジンラックに、ぼくとツマは早速、それぞれのお気に入りの雑誌を立ててみたりした。するとなんだか、どこかのお店のようになった玄関脇は、急にすました顔をした。
翌日、ぼくとツマは素敵なマガジンラックを眺めながら「ちゃんとしたお礼をしないとね」と、浦添のパルコにお礼の品を求めて出かけることにしたのでした。