世の中には、やたらと食べ物の話が好きな人がいます。
何処どこの何なにが美味しい、というような事をよく知っているような人たちです。
若いときにはやっぱりお金もそんなにないし、何よりもやたらとお腹が空くし、そんなこともあって口に入る大体の食べ物は、すべて美味しかったように思います。しかし、若いときには何であんなにお腹が空いたのでしょう?今思えば。
美食を語るのは、やはり、それなりにお金を使えるようになってくる年齢からなんだと思います。ぼくの感覚でいうと、30代くらいになると、そういった「食通」のような事をいう人が出始めるように思う。そして、40代、50代とその数は増えてくるようです。要するに、量が食べられなくなってくると言うことなんでしょうね。寂しいけれど。
先日、以前の職場の友人達と3人で食事会をしました。この会は2ヶ月に一度の定例会になっていて、幹事は持ち回りです。メンバーは全員50代。今回、幹事を引き受けてくれたKさんは、とても素敵なお店を予約してくれました。
そこは中心市街のビルの一室で、看板も無くひっそりと営業している、隠れ家的なお店です。古いビルの5階だったか、のエレベーターを降りると、何の目印も無い空っぽの質素な廊下が伸びています。この奥に飲食店があるなんて想像できないような、殺風景で事務的な灰色の廊下です。もし付き合い始めのカップルの女の子が、彼と一緒にこのエレベーターを降りたなら、きっと少し身を固くしそうな場所なのです。
しかも、その廊下の突き当たりにはさび色で金属製の重そうな扉があり、そこにも、その周辺にも店名も何も書いていないのです。この扉の向こう側では、あやしげな人たちが、いかがわしい事をしているのではないかしら。まだ、実はよく知らないその彼の事を振り返り「ここなの?」と彼女は言うでしょう。
しかし、その重い金属製の扉を開くと、そこに初めて墨痕鮮やかに、店名が漢字で染め抜かれた真っ白な暖簾が現れるのです。
幹事役のKさんが、この日予約してくれたのは、11,000円のコース。
それなりの金額です。Kさんもまた食べる事にうるさい人です。だから、味は間違いありません。ちょっと高いなとは思ったけれど・・・。
ビールで乾杯し、新鮮なお刺身から始まって、すぐにお店の方お薦めの日本酒を頼みます。そこからは、のどぐろの煮付け、オレンジの器に入った牡蠣のグラタン(牡蠣の旨味と柑橘の風味が良い)などの絶品料理が続き、日本酒は銘柄を変えながら杯を重ねます。その後も料理は続き、それはそれは美味しいものばかりの至福の時間を過ごしました。たまにはこんな時間を、気心の知れた友人と過ごすのは悪くありません。
料理はまだまだありましたが、写真を取り忘れました。
そして、その3日後には高校時代の武道系運動部の先輩に誘われて、その先輩の馴染みだという焼鳥屋さんに行くことになりました。
ここの大将は市内で有名なお店で修行をされたとかで、とっても美味しい焼鳥を出してくれます。しかも、一本90円からという驚きの安さです。巷を騒がすインフレというやつはこの店には来ていないのでしょうか。
19時くらいに先輩と店に入ったときには4割程度の客の入り具合だったのですが、それから一時間もしないうちに、カウンターもお座敷も客で一杯になっていました。安くて美味しいお店をみんなよく分かっていますね。
焼鳥を焼酎のお湯割りで気持ちよく頂きながら、先輩の話に耳を傾けます。ぼくは昔からなんですが、この年上の先輩達のお話を聞くのが苦にならないというか、むしろ好きなくらいなのです。そのお陰で、多くの人生の先輩方から、色々な知恵を授けて頂いたように思います。先輩達にはそんな気はないのかも知れませんが、ぼくにとっては、これもまた至福の時間なのです。
近年、少し体調を崩された先輩でしたが、全然お元気で、この日は気持ちよくお互いに酔いながら、先輩の馴染みだという2件目のお店へ向かいました。
そして、コロナ以来歌っていなかったカラオケを歌い、7,8年振りになる先輩の十八番を心地よい酔いの中で聴いたのでした。