いつの間にかという感じで10月がやってきた。1年半を超えるウイズコロナの生活にすっかり慣れてしまい、メリハリのない日々があっという間に流れて行く。
先週末に、4か月間に渡って続いた沖縄県の非常事態宣言がようやく明けた。
それなのに今日の牧志公設市場周辺は、思いの外、人通りが少なかった。アーケード街もまだまだシャッターを下ろしたままの店が多く、静かなものだった。
そんな中で所々の酒場だけがポツンと灯を点していて、それでも少ない客がお酒を楽しんでいた。
思えば、ぼくが全くお酒を飲まなくなって9ヵ月が過ぎていた。
断酒をしたほどの気持ちはないのだが、体調が悪く飲もうと思わなくなり(その後入院した)、治療後、随分と調子は戻ったのだけれど飲まない快適さを知って、そのまま酒を飲まずにいる。
高校卒業前からずっと飲み続けてきて、こんなに酒を飲まない日々は高校3年生の受験前以来ではないか。
それなのに、商店街のガラス戸の向こうにカウンターの酔客を見て強烈な飲みたい衝動に襲われた。コロナ前にはカウンターのある店でよく一人飲みをしたものだが、その時の心地よい酔味が体の奥から湧き上がってくるのを感じたのだ。
お酒を飲まない事で頭はスッキリし、内臓の疲れを感じなくなり、それにお金も使わずに済むというメリットを頭ではよく理解しているのだけれど、止まり木の客を見た時の酒への衝動は極めて強いものだった。
結局飲むことはなかったのだけれど、ああ、これが依存性というやつかもしれないな、と思った。
人通りの少ない商店街は、古い香港映画のマフィアの巣窟のように見える。
そういえば昔、都市伝説で香港ブティックの試着室というのがあったっけ。
それはこんな話だった。
香港の市街地で女性服を販売するお店の中には、日本人観光客がやって来るとやたらと試着を勧めてくる店があるらしい。その店で二人組の女性客の一人が試着室に案内され、洋服のボタンを外していると正面の鏡がくるりと一回転して、男の太い腕でその奥に引き込まれてしまう。
試着室の外で、友人が長い時間戻ってこない事を不審に思ったもう一人の女性が、友人を試着室に案内した中年の女にその事を告げると「何の事でしょう。あなたは最初からお一人でそこのドアを開けて入っていらっしゃいました。友人なんて連れていませんでしたよ」と無表情に答えたというもの。
インターネットがない時代の怪しげな噂話。
そんな都市伝説を思い出しそうになるくらい、この日のアーケード街は、寂しくて怪しい雰囲気に見えたのだった。