南風通信

みなみかぜつうしん あちこち 風のように

活字漂流記「案山子の村の殺人」楠谷佑


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子供の頃にTVドラマで見た金田一耕助シリーズが、ぼくのミステリー好きの原点だと思う。金田一耕助を演じていたのは古谷一行さん。たくさんの俳優が金田一耕助を演じたけれど、古谷一行の金田一が一番好きだ。たぶん最初に見た金田一が古谷だったので、そういうものだと刷り込まれたのだろうと思う。

 

金田一耕助シリーズのオドロオドロしさと、不可能犯罪の組み合わせは少年の心を虜にするには、充分魅力的だった。おばけ屋敷のドキドキとトリックが暴かれるカタルシスを味わう体験だった。

 

今でも推理小説は謎解きや犯人当てのものがすきで、そういった推理小説の一群を好事家たちは、本格推理小説という。

 

どこかにまだ見ぬ魅惑の本格推理小説が、ないだろうか?心の奥にそんな思いを抱いていたりする。

 

そして、久し振りに本格推理小説の新たな金脈を掘り当てたかもしれぬと、興奮する作品にめぐり逢った。それが「案山子の村の殺人」である。

 

本格推理小説の原点的なフォーマットであるクローズド・サークルものである。警報級の大雪によって外界から閉ざされた村で、犯人の足跡のない不可能犯罪が起きる。やがて村人たちは自分たちの中に犯人がいると疑心暗鬼になり……。

 

やがて読み手は、作者からの二度に渡る「読者への挑戦状」を突きつけられる。犯人を特定出来る手が掛かりは全て明示されたと。

 

こういった作品は、読み手が探偵役と競って犯人を当てようとするのが良い。そのほうが楽しめる。そして、ぼくは、まんまとしてやられ、犯人を当てることは出来なかった。それがたまらないのだ。簡単に犯人が分かってしまうようでは面白くない。さあ、探偵役として腕に覚えがある者は、是非、挑戦してみられるが良いと思う。