ある冬の日、高校の剣道部の後輩の女の子が入院した。なんでも親知らずを抜いた事で入院することになったらしい。
そのせいで、もう何日か剣道場に来られていない彼女を見舞う為に、M先輩や同期のF君N君らと病院へお見舞いに行くことにした。
病室でベッドに横になっていた後輩は、冬眠前のリスのように頬を腫らした情けない顔で、やたらと僕らにすみませんと恐縮した。べつに謝ることはないのに。もちろん。
思えば、若い女の子が頬をあり得ないくらいに腫らした顔を、男子には見られたくはなかったろうな、と思う。でもそこは体育会系女子の彼女のことだ、意外と気にしていないのかもしれない。それから、皆で買ったお花をベッドサイドに飾って、長居はせずに病室を出ることにした。
病院の建物を出ると外の空気は堅くて冷たかった。風がないのが幸いだった。
そらから細かな雪が降ってきた。この九州の田舎町にもたまには雪が降るのだ。
ぼくのウオークマンのイヤホンから流れてきた曲は「クリスマスタイム・イン・ブルー」。
もうすぐ、1985年のぼくらの地方都市にも、クリスマスシーズンが迫っていた。