南風通信

みなみかぜつうしん あちこち 風のように

単眼複眼

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沖縄県 金武町 2020.7

 

世の中が正論で溢れている。

他人に迷惑をかけないように充分に気を配りながら生活するべきだし、ルールは守るべきだし、非生産的なことは良くない事だ。

合理的で、生産的で、理知的で、論理的な有能な人になりたい。皆がそう思うような世の中に見える。

 

アマノジャクなぼくは、千鳥の相席食堂のボタンを押したくなる。「ちょっと待てーい」と。

 

人間は、そんなに立派に出来ていないじゃないかい。そんな立派に出来ていない人間が、何とか立派でありたいたいと頑張ってるんじゃないかと。ずいぶんと無理ばかりしている毎日じゃないかと。そこの前提をなしにすると人間しんどいんじゃないかと。

 

仕事でお世話になっている駐車場に、ちょっと外人ぽい顔をしたおじさんがいる。もう、今まで充分に働いてきて、自分のそれなりの役割分くらいは働いて、今はゆっくりと駐車場の雇われ管理人のおじさんだ。

 

むっちりした体形に仕事用の青いシャツがよく似合う。大きな二重の目にはいつも笑みを浮かべていて愛嬌がある。冗談ばかり言っていて、誰にでも愛想が良い。

 

そんなおじさんが、車を出そうとしているぼくに、いつもの脱力した笑みを浮かべながら言う。

「コロナ対策だっていうけど、なんでパチンコ屋ばっかり閉めようとするの?パチンコなんてみんな台に向かって正面向いて打ってるし、会話なんてしないし、台と台の間にアクリル板置けば、飲食店よりもよっぽど安全だよ。俺はパチンコが趣味だからねえ」

 

正直、それを聞いてぼくは不謹慎な発言だなあと思った。でも、ちょっと待てよ、とも思う。言われてみれば、確かにそうかもしれない。飛沫感染がリスクだとすれば、向い合って飲食するお店の方がよっぽど危険かもしれない。そう思わないでもない。

 

「パチンコ屋で感染したって話ないでしょう。ねえ」このパチンコ好きなおじさんは、世の中の風潮が不満そうだ。

「でも、パチンコ屋で感染しても、パチンコ好きはそうだとは言わないわなあ」そう言っていつもの愛想の良い笑顔を浮かべる。

 

ぼくの車が出庫状態になり、会話は途切れる。車に乗り込み、キーを捻ってエンジンをかける。暑い日だ。カーエアコンの温度を下げる。

 

世の中にはいろいろなモノの見方があるものだなあと思う。ぼくの考えは、そのおじさんとは相容れていなかったけど、そういった考え方もあるんだなあと気付かされる。

 

皆、立場が違うし、物事の優先順位も違う。いろいろな見方、考え方があってしかるべきだろう。おじさんの話を聞きながら、自分が色眼鏡をかけて世の中を見ていると気付かされる。

 

子供の頃に、学校の先生が教えてくれたエピソードがある。

太平戦争開戦の時、アメリカの議会で真珠湾攻撃に対して日本に宣戦布告すべきだという事が決議された。その時、ただ一人だけ反対した女性議員がいたという。

「なぜ一人だけ日本に宣戦布告する事に反対したのか」との問いに、「私以外のすべての議員が賛成したから、私は反対したのだ」と答えた。そして「民主主義において全員の意見が同じというのは危険な事だと考えるから、私は反対票を入れたのだ」と。確かそんな話だった。

 

このエピソードは、ぼくの人格形成に強く影響したと思う。そして、その先生は何故こんなエピソードを子だもたちに話したのか分からない。

 

それが正しいかどうかは別として、様々な意見がある事は悪いことではないと思う。

駐車場のおじさんに、いつの間にか凝り固まったものの見方をしつつある自分というものを気付かされた気がした。