南風通信

あちこち 風のように

宮本輝を読む


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学生時代によく読んでいた宮本輝の小説を読むことが、最近の大きな楽しみになっている。

 

『泥の川』からの三部作。男女が手紙をやり取りする形式で、それぞれの心情を表す『錦繍』。短編集だけど最も好きだったかも知れない『五千回の生死』。どれもまだ世間知らずだったぼくに人生の何たるかを、少しだけ教えてくれたような物語たち。そして、すぐそばにいそうなキャラクターたち。

 

社会人になって小説を読まなくなって、あれほど好きな作家だったのに読まなくなってしまっていた。

 

随分と間が空いていまったけど、空白の時間を埋めるように次々に読んでいる。

 

最近読んだ『三十光年の星たち』もまた、生きる力を与えてくれるような物語だ。

この小説に次のような一節がある。

 

 

「自分を磨く方法を教える」と佐伯は言った。仁志は、車の速度を落とし、佐伯の次の言葉に神経を集中した。「働いて働いて働き抜くんだ。これ以上働けないってところまでだ。もうひとつある。自分にものを教えてくれる人に、叱られ続けるんだ。叱られて叱られて、叱られて、これ以上叱られたら、自分はどうかなってしまうくらい叱られ続けるんだ。このどっちかだ」

 

この物語の終盤で、何者でもなかった30過ぎの若者である仁志は、もう70を越えて人生の後始末を始めた佐伯の意志を継ぐことを、自分の使命だと決める。佐伯の全てを引き継ぐ事の重さを、引き受けると決意するのだった。それは『師弟』ともいえる世界。伝統工芸の職人の世界にもあるような。

 

今の社会が失くしてしまったかもしれない、大切な何かを言い表しているような気がして、ぼくは、この文章を手帳に書き写したのでした。

 

そして、人間にとっての信頼というものを、少し考えさせられたのでした。