ぼくが友人から薦められてジョン・レノンのアルバムを初めて聴いた時には、ジョンはもうとっくの昔に亡くなっていて、既に伝説になっていました。
夢見がちな、地方の若者であったその頃のぼくにとって、音楽で世界を変えようとした彼はヒーローでした。仕事で疲れると、今でも、時々、ジョンのアルバムを無性に聴きたくなることがあります。今回、久し振りに聴いた「心の壁、愛の橋」に収録されているのが「Bless You」です。
このアルバムが制作された頃、ジョンはオノ・ヨーコと別居状態にあり、NYを離れて主にLAで愛人と暮らしていました。1973年秋から1975年初頭にわたるこの時期は「失われた週末」と言われています。(愛人をあてがったのはヨーコ本人で、公認されていました!)
昔読んだジョンの評伝で、この「失われた週末」のジョン・レノンは飲んだくれて荒れた生活をしていたように書かれていたと思います。そのせいでこの時期のジョン・レノンはあまりいい状態でなかったと思っていました。
ところが、改めてこのアルバムを聴いてみると、それまでのアルバムのような政治色や社会に対する批判めいたものは陰を潜め、ナイーブでリラックスした普段着のジョンを感じます。むしろ音楽的には聴きやすく、ミュージシャンとしての才能が伸びやかに、自由に羽ばたいている印象です。
ジョン・レノンの生涯を通して、オノ・ヨーコが彼に強い影響を与え続けた事は間違いありませんし、また、ジョンもそれを必要としていたと思います。しかし、このアルバムを聴くと、この時期、ヨーコが不在だからこそ開花する才能と感性もあったのだなあ思わざるを得ません。
ヨーコはとても強い女性でしょう。その強さがジョンを導き、新たなインスピレーションを与えた事は疑いないと思います。しかし、その強さが時にジョンを追い詰めたのではないかと、今はそう思うのです。
当時、ジョン・レノンの最高傑作と言われセールス的にも成功したこのアルバムを聴くと、ジョンと暮らした愛人、メイ・パンはきっと普通の優しい女性だったのだろうと思えます。そして、ジョン・レノンのファンは、彼女の事をもっと評価すべきだよなと思えるのでした。
改めて、「心の壁、愛の橋」は良いアルバムでした。