ぼくの生まれた街には小さな映画館があった。
商店街の細い通り沿いの古びた八百屋の二階にそれはあった。
随分と昔のこと。
その八百屋の二階の小さなシアターの座席は、ぼくにとってまだ見知らぬ世界への入り口だった。
高校生だった頃、ここでやってる映画ならとにかく何でも見ていた時期がある。
地方都市の少年は、ここで映画見るたびに少しづつ大人になっていった。
ある日、暗い館内でシートに身を埋めていた時に、ぼくは確かに「この街を出て、まだ見ぬ場所へ行こう」と思ったのだ。
あれから随分の時が流れて、ぼくは今ここにいる。
古びた八百屋はその後、ローソンに変わってしまったが、思い出のシアターは今もそのビルの二階で映画をかけ続けているらしい。
ぼくは小さな映画館が好きだ。
2017年のここ高知市にも、古びた商店街の脇に小さな映画館がある。
その名を「あたご劇場」という。
ミニシアターで名画座な地元の名物映画館だ。
昭和の最盛期には高知市内中心部には28件の映画館があったそうだ。
それが今では、ここあたご劇場と大手シネコンの二件のみ。
入れ替えなしで途中出入り自由。料金は一般1000円、シニア・学生800円。日本一安い映画館を自負している。
昭和30年開館。料金も建物も昭和の時間が止まったままのようだ。
建物は傷んで正直、廃屋一歩手前のよう。初めての方はきっと入場に二の足を踏むだろう。
でも、ここには映画愛が滲んでいる。隅々に映画愛が染み込んでいるのを感じる。
先代が立ち上げ、二代目が受け継いだ小さな映画館に今日も常連が通う。
ぼくもしばらくは新しい常連に交ぜてもらおうか。
この愛すべき映画館で。