沖縄の空は広い。そして青いと思う。
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9月のある休日、久し振りに車を走らせて釣り場を探しに行った。
ぼくの20年以上続く趣味である、ブラックバス釣りの釣り場を探しに行ったのだ。
ここ沖縄ではバス釣りの情報が極めて少ない。インターネットで見つけた数少ない情報を頼りに嘉手納町の「屋良城址公園」へ到着した。比謝川に沿うこの公園でバスが釣れるという。
駐車場から川辺の公園へ向かう道は、左右に迫るジャングルのような木々のせいで薄暗い。しかも、所々に無縁墳墓の跡が点々と見える。ネットによれば、幽霊が出るという噂もあるらしいが、納得の雰囲気だ。
川に沿って歩いてみると、いかにも釣れそうなポイントがいくつか見えた。
ああ、あの倒木の脇に魚が付きそうだな、と思う。
でも、この日は様子見なのでロッドやルアーは持ってきていない。更に歩いていくつかのポイントを見つけたが、バスを目視する事は出来なかった。釣り人も一人もいない。
釣り人どころか、この公園で人を見かける事がなかった。遊歩道の向こうに展望台が見えるが、ゴーストタウンのようでちょっと怖い。本当に幽霊でもでそうだった。あまり見たことのない熱帯系のような植物が茂っていた。鳥なのか虫なのか「ギュン・ギュン」とアラームかサイレンのような鳴き声が響き続けた。
公園のある嘉手納町から那覇市内までは、車で一時間弱ほどの距離。日が傾き始めた頃、この少しおっかない公園を後にした。
国道58号に出て那覇市内へ向かうと、土曜日の夕刻で、既に車が増え始めていた。
しばらく走っていると、車窓の左手にフェンスが数キロも続いている事に気付いた。フェンスの向こうに広大な芝生が続く。カーナビを眺めると、フェンスの向こう側は色を失ったグレイに表示されている。
そのうち、フェンスの向こうに黒に近い濃緑の飛行機の、色気のない巨大な尾翼が見えた。市街地を普通に走るようには作られていない、色の無い車両が整列して休んでいるのも見えた。それらはフェンスの向こうの長閑な芝生の向こうに見えた。その上には沖縄らしい青い空が広がっていた。
急に、今、この時も、リアルな世界が回り続けている事を思い知らされたような気がした。
普段暮らしている街での、かりそめの現実やそれなりにサバイバルな日常とは違う、リアルな世界。
やがてフェンスは途切れた。フェンスの向こうに広がる芝生の光景は、日常の光景に取って変わられた。
ロードサイドに連なる、ケンタッキーフライドチキン、ドミノピザ、スシローにファミリーマート。日本のどこででも見られる日常の光景。遠くに飛行機が飛ぶのが見えた。
沖縄の空は広い、そして青い。それはとても美しいと思う。
日没が迫る頃に、色を失ってゆく広い空もまた、沖縄らしく美しい空だと思った。