南風通信

みなみかぜつうしん あちこち 風のように

四国バースデイ・フリー切符の旅 ③

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駅の待合所の外では柔らかい雨が降っていた。柔らかな雨は景色の彩度を落としてしまい、現実感が少し薄まってしまう。どこかセンチメンタルな雨だった。7月初旬、「秘境駅」坪尻駅に一人きりでいるぼくは、少しセンチメンタルだったようだ。

 

<坪尻スタンプの旅>

坪尻駅の待合所には来駅記念のスタンプが置いてあります。このスタンプは秘境駅マニアには人気の物ですが、過去に持ち去られた事があります。その後、青森県で(!)発見されたスタンプは無事に坪尻駅に戻されました。そのエピソードが壁に掲示されていました。青森から帰ってきたスタンプは細い針金に繋がれています。気休め程度の防犯策ですね。

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<秘境駅に癒される>

坪尻駅の駅周辺には民家などありません。それどころか隣接する道路もありません。駅から最も近い国道までは、崖のような山道を15分程登らなければならないのです。

前回も書きましたが、駅舎のすぐ裏には「マムシ注意」の看板があり、そして「携帯電話はつながりますが、救急車を呼んでもここまでは来れませんので、マムシに噛まれないよう充分注意してください」という注意書きが。それほど人里離れた静かな環境にあるのです。

人工的な音のない世界に、鳥のさえずりが聞こえる。そしてセンチメンタルな雨はまだ降り続きます。

 

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<秘境駅は愛され駅だった>

待合所にはここを訪れた人々が書き残したノートが置いてありました。鉄道の旅をしていると、この「想い出ノート」を見かける事がよくあります。「想い出ノート」を読んでいると、今、自分が居る場所に知らない誰かも居て、今ぼくが見ている風景と同じ景色を見ていた事に想いを馳せます。一生会う事もない誰かと繋がるような気がして、ぼくはこのノートが好きなんです。SNSとは違う手書きの文字に、見知らぬ誰かの温かみを感じます。確かにここに居たんだと。

北からも、南からもここを訪れる人がいる。北海道から、熊本から。

定年を迎えた夫と二人で訪れた奥さん。息子と二人でやって来た母親。4才の孫との旅を楽しむおじいちゃん。大学の鉄道研究会の合宿で訪れる若者たち。一人ここへやって来た67歳のご婦人。そんな彼ら彼女らを思う。

ノートを読み進めると、どうやらここに宿泊する強者もいるようです。さすがにぼくには無理ですねー。

古いノートは阿波池田駅の職員がワープロに打ち直していました。最も古い日付は2010年9月4日。

 

「倉敷からぶらりとやって来ました。大学3年生。ブラブラできるのもこの夏までのようです。就職できるかな・・・・。それにしても暑い・・」

7年後にぼくがこれを読んでいる。彼なのか彼女なのか、今は就職して何処かで頑張っているのかな。ふと、この秘境駅の事を思い出す事が今でもあるのかな。

想い出ノートは手書きが7冊、ワープロで打ち直したものが8冊ありました。ノートを読んでいるうちに窓の外が暗くなってきました。雨が少し強くなってきたようです。

 

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<星に願いを>

駅舎の裏手に笹の葉が飾ってありました。たくさんの短冊が笹の葉に結んでありました。そういえば今日は七夕でした。

 

「大きな花束をもらってプロポーズされたい」

微笑ましい。願いが叶うと良いですね。

「平和に向けて 世界中が 舵を切れますように」

いろいろな願いが風に揺れていました。

どうぞ、それぞれの願いが叶いますように。

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坪尻駅での2時間半は癒しの時間でした。ぼくはもう一度ここを訪れる事があるだろうか。ここは秘境だ。転勤で高知に来たから来れた場所。ぼくは再びここを訪れる事があるだろうか。癒しの駅、愛すべき坪尻駅。

 

12:59発の琴平行きの列車がホームに入って来ました。秘境駅ともそろそろお別れです。車内の乗客は3人。JR四国は経営が厳しいだろうなあ。

シートに体を預けて荷を降ろします。先客に目をつぶった若者が一人。眠っているのか、考え事をしているのか。

列車はディーゼルのガスの匂いを残して、坪尻駅のホームをゆっくりと離れました。そして、フリー切符の旅は続きます。

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つづく